第1章 目覚め目を開ける。「なんだ?ここ・・・」 起き上がり、そんなことをつぶやいた。 「どうなってるんだ?一体・・・」 自分でも言ってる意味がわからない。しかし何かが足りない気がする。 「頭痛ぇ・・・・あれ?」 時計を見る。針は8時25分だと告げていた。それを見たとたんに起きた時から感じていた違和感はふっとんだ。 「うわあああぁぁぁっっ!遅刻だ!!」 そう叫びつつ大急ぎで着替える。鞄を抱え玄関へ突進する。ふと、首からペンダントを下げているのに気付く。 「ん?なんだこれ」 よく見てみると丸い綺麗な石の周りを、剣の紋章で飾っている。デザインが気に入ったので、そのまま学校に行くことにした。 俺は谷田樹<たにだいつき>。高校1年生だ。といってももう2月末なのだから、いい加減学校にも慣れてきた所だ。趣味は人の噂を嗅ぎつけ、それの実証をすること。いかにも悪趣味であるが、楽しいんだから仕方ない。そのため情報収集は得意だ。運動も人並み以上にこなせる。 ―――その、筈だ。朝から何か違和感を感じる。この記憶がどこかよそよそしく感じ、また、何かを忘れている気がする。それでもとにかく、今はひたすら学校へ向かって走る。あれ、こんな風に最近走ったっけ?などと思いつつ、見えてきた校門に向かって走るスピードを上げる。すんでのところで教室に転がり込む。 「ハァ、ハァ、ま、間にあった、ハァッ、ふう」 息を整えながら、自分の席に着く。 「お前さぁ、時間ギリギリなんて珍しいよな。なんかあったのか?布団に世界地図でも描いたか?」 などと出会い頭に失礼なことを真顔で言ってくる後ろの席のこいつは、瀬多剣<せたつるぎ>。中学校の時からの友達で、俺にだけ口が悪い。 「ホントにね。珍しすぎですよ、遅刻寸前なんて」 と剣と便乗している奴は、森坂勇<もりさかゆう>(いさむだろ?と聞いたら本気で拳骨を食らった)。俺の前の席だ。この二人をセットで見るとすごい。 剣は身長179センチ。大柄なその体格と変わらず、やることが結構大雑把だ。 勇は身長155センチで、少し小柄だがかなり運動神経がいい。また、常に敬語を使うなど、礼儀正しいというか細かいというのか、とにかく几帳面だ。こいつらは致命的に相性が悪いだろうと思っていたが、あっという間に意気投合してしまった。 「で、結局なんだったわけ?教えてくれよ」 剣が聞く。 「別に。目覚めが悪かっただけだよ」 しれっと返す。違和感なんてこいつらに言っても意味が無い。 「つまりは寝坊か。全く、期待して損した」 コイツは友人が学校に遅く来た事の理由に何を期待しているのか。全く腹立たしい。 「ところでそのペンダント何ですか?いつからそんな物を持ってたんですか」 勇がもう一回話に入ってくる。 「ああ、これか。まあ、ちょっとな」 適当に誤魔化す。朝起きたらありましたなんて言えない。 「む、田中が来るぞ」 田中と言うのはこのクラスの担任で、禿げかかっている頭をバーコードヘアにして誤魔化そうとしている(無論そんな物は無駄)。いちいち細かな事でぶちぶちと愚痴なのか説教なのか分からないモノを二十分ほど続けるので生徒からは非常に嫌われている。うるさいとまた愚痴説教が始まるので、剣の一声でお喋りは止み、みんな姿勢を正した。 「出席採るぞー。休みはいるか?」 田中が言う。 *** 放課後、残って掃除をしていたら何やら秘密の香りがする話し声を発見する。掃除用具入れの中に隠れて様子を伺う。 「まだわからないのか?あいつはもう手遅れだ。早く始末しないと」 手遅れ?始末?さっぱりわからない。 「とにかく夜1時あたりにおびき寄せよう。どうするかは捕らえてからでいい」 前者の方の声は聞いたことがある声だ。倉見秋<くらみしゅう>、学級委員だ。 どういうことだろう。調べてみる価値はありそうだ。 「なら、1時に森だな?いいか?」 「構わない。好きにしろ」 森、というのは駅から歩いて10分で着く所にある文字通り森だ。二人が別れ、教室に誰も居ないことを確認して掃除用具入れから出る。 不良の争いか何かだろうか。やたらと物騒な会話だった。こういう時は聞かなかったフリをするのが一番だと解っていたが、頭の奥で引っ掛かり続けている。止せば良いのに俺は結局見に行く事にした。 /続 ジャンル別一覧
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